最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)879号 判決 1967年11月17日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人篠原三郎の上告理由一、について。
受寄者の寄託者に対する寄託物返還義務が受寄者の責に帰すべき事由によつて履行不能となつた場合には、受寄者は、寄託者が寄託物の所有権を有すると否とを問わず、寄託物の価格に相当する金額を寄託者に対し賠償すべきであり、寄託者が寄託物の所有権を有しない場合でも、寄託者が所有者に対し損害の賠償をした後に初めて受寄者は寄託者に対し賠償責任を負うことになるものではないのが原則であるけれども、本件の如く寄託者が寄託物の所有者でなく、当該寄託物はその真の所有者の手中に帰つたなどの原判決確定の事実関係の場合においては、受寄者の責に帰すべき事由により寄託者に対する寄託物返還義務が履行不能になつたとしても、寄託者は、寄託物の価格相当の損害を蒙つたものということはできないから、寄託者である上告人は受寄者である被上告人に対し寄託物である本件自動車の返還に代る填補賠償、すなわち本件自動車の価格相当の損害賠償請求をなす権利を有しないものといわなければならない旨の原判決の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立つて原判決を非難するに帰し、採ることができない。
同二、について。
本件自動車につき上告人の即時取得による所有権の取得を否定した原判決の事実の認定及び判断は、その挙示する証拠関係、事実関係から、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原審の認定にそわない事実を主張し、独自の見解に立つて、適法になされた原審の証拠の取捨判断、事実の認定、それに基づく正当な判断を非難するに帰し、採ることができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)